この記事は Amanda Alexander による Android Developers Blog の記事 " Google I/O 2022: What’s new in Jetpack " を元に翻訳・加筆したものです。詳しくは元記事をご覧ください。
Android Jetpack は、最新の Android 開発の重要な柱とも言えるものです。これは 100 以上のライブラリ、各種ツール、ガイドをまとめたスイートで、デベロッパーはベスト プラクティスに従ったり、ボイラープレート コードを減らしたり、Android のあらゆるバージョンやデバイスで一貫して動作するコードを書いたりしやすくなるため、アプリ独自の機能の構築に専念できるようになります。
Jetpack は Google Play のほとんどのアプリのアーキテクチャに使用されており、現在、上位 1,000 アプリの 90% 以上で使用されています。
こちらは、I/O での「Jetpack の新機能」 (動画/英語) の拡大版として、Jetpack の最新アップデートのハイライトを紹介したものです。
以下では、次の 3 つの主要な Jetpack アップデートについて取り上げます。
最後に、いくつかの重要な機能更新を紹介します。
アプリ アーキテクチャ ライブラリとコンポーネントを使うと、堅牢で、テストや保守がしやすいアプリを構築できます。
Room は、SQLite の抽象化レイヤを提供する、推奨のデータ永続性レイヤです。プラットフォームのユーザビリティと安全性を高めることができます。
Room 2.4 では、Kotlin Symbol Processing (KSP) のサポートが安定版になりました。当社の Kotlin コードのベンチマークでは、KSP の処理速度は KAPT の 2 倍に向上しています。Room 2.4 には enum と RxJava3 の組み込みサポートも追加され、Kotlin 1.6 に完全対応しています。
Room 2.5 には、Kotlin への完全な書き換えの最初の部分が含まれます。これにより、Java プログラミング言語で書かれた旧バージョンとのバイナリ互換性も確保しながら、今後の Kotlin 関連の機能向上の基盤を提供します。また、room-paging アーティファクトを利用した Paging 3.0 の組み込みサポートにより、Room クエリで PagingSource オブジェクトを返せるようになります。さらに、マルチマップ(ネストしたマップや配列)型戻り値を使用するリレーショナル クエリ メソッドがサポートされるので、デベロッパーは追加のデータ構造を定義せずに、JOIN クエリを実行できるようになります。
@Query("SELECT * FROM Artist JOIN Song ON Artist.artistName = Song.songArtistName")fun getArtistToSongs(): Map<Artist, List<Song>>
@Query("SELECT * FROM Artist
JOIN Song ON Artist.artistName =
Song.songArtistName")
fun getArtistToSongs(): Map<Artist, List<Song>>
AutoMigrations のアップデートによってデータベースの移行がシンプルになり、新たなアノテーションとプロパティのサポートも追加されます。@Database アノテーションの新しい AutoMigration プロパティを使うと、移行元や移行先のバージョンを宣言できます。また、Room でテーブルや列の変更に関する追加情報が必要な場合も、@AutoMigration アノテーションを使用して入力を指定できます。
Database( version = MyDb.LATEST_VERSION, autoMigrations = { @AutoMigration(from = 1, to = 2, spec = MyDb.MyMigration.class), @AutoMigration(from = 2, to = 3) })public abstract class MyDb extends RoomDatabase { ...
Database(
version = MyDb.LATEST_VERSION,
autoMigrations = {
@AutoMigration(from = 1, to = 2,
spec = MyDb.MyMigration.class),
@AutoMigration(from = 2, to = 3)
}
)
public abstract class MyDb
extends RoomDatabase {
...
DataStore ライブラリは、SharedPreferences の問題に対処する堅牢なデータ ストレージ ソリューションです。これは、さまざまな SharedPreferences のユースケースを置き換えることができる強力な仕組みです。使い方を詳しく知りたい方は、最新の Android 開発スキル : DataStore (英語) の動画シリーズと記事をご覧ください。アプリでこのライブラリを使用できるかどうかを確認する方法、依存関係の注入と合わせて使用する方法、SharedPreferences から Proto DataStore への移行などに関するガイドを提供しています。
Paging ライブラリを使うと、データの小さなチャンクを読み込んで表示することで、ネットワークやシステム リソースの消費を抑えることができます。アプリのデータは、RecyclerView や Compose の Lazy リストで、少しずつ段階的に読み込むことができます。
Paging 3.1 は Rx と Guava 統合の安定したサポートを提供します。Paging は Kotlin コルーチンをネイティブに使用していますが、これらの統合はその Java による代替機能を提供します。このバージョンでは、無効なデータや古いデータを表す新しい戻り値の型、LoadResult.Invalid が追加され、無効化の競合状態の処理が向上しました。また、新しい onPagesPresented API と addOnPagesUpdatedListener API によって、no-op 読み込みや空ページに対する操作の処理も向上しました。
Paging 3 についての詳細は、新しくシンプルになった、Android デベロッパー サイトの Paging の基本 Codelab をご覧ください。リストを表示するアプリに Paging ライブラリを組み込む方法を確認できます。
Navigation ライブラリは、アプリ内のさまざまなコンテンツ間を移動するためのフレームワークです。
今回、新しい navigation-compose (英語) アーティファクトによって、Navigation コンポーネントが Jetpack Compose に統合され、アプリでコンポーズ可能な関数を遷移先として使用できるようになりました。
また、複数バックスタック機能が改善され、状態を記憶しやすくなりました。NavigationUI で、ポップされた遷移先の状態の保存と復元が自動的に行われるようになったので、デベロッパーはコードを変更せずに複数のバックスタックをサポートできます。
navigation-fragment アーティファクトにより大画面サポートが拡張され、構築済みの 2 ペイン レイアウト実装が AbstractListDetailFragment で提供されます。このフラグメントは SlidingPaneLayout を使用して、一覧ペイン(サブクラスにより管理される)と詳細ペイン(NavHostFragment を使用)を管理します。
すべての Navigation アーティファクトは Kotlin で書き換えられ、ジェネリクスを使用するクラス(NavType のサブクラスなど)の null 可能性に関する改善が行われています。
最新の Android 開発のベスト プラクティスを取り上げたさまざまな動画と記事で、主要なアーキテクチャ ライブラリの詳しい使い方を説明しています。最新の Android 開発スキル : アーキテクチャ (動画/英語) シリーズをご覧ください。
パフォーマンス ライブラリを使用すると、パフォーマンスの高いアプリを構築したり、高パフォーマンスを維持するための最適化方法を特定したりして、エンドユーザーのエクスペリエンスを向上できます。
特にインストール直後にアプリを使用するときなど、アプリのスピードはユーザー エクスペリエンスに大きく影響します。そのような初回エクスペリエンスを向上するために、ベースライン プロファイルを作成しました。ベースライン プロファイルを使うと、アプリやライブラリが Android ランタイムにコードパスの使用方法に関するメタデータを提供します。ランタイムは、それを使って Ahead-Of-Time コンパイルの優先順位を判断します。このプロファイル データはライブラリ全体で集計され、baseline.prof ファイルとしてアプリの APK に保存されます。そしてインストール時に、アプリとその静的にリンクされたライブラリ コードの一部を事前コンパイルするために使用されます。これによってアプリの読み込みが速くなり、ユーザーがアプリを初めて利用する際のフレーム ドロップを減らすことができます。
Google ではベースライン プロファイルをすでに活用しています。ベースライン プロファイルを採用することで、Google Play ストアアプリの検索結果ページの最初のレンダリング時間は 40% 短縮しました。ベースライン プロファイルは Fragment や Compose などの一般的なライブラリにも追加されており、エンドユーザーのエクスペリエンスが向上しています。独自のベースライン プロファイルを作成するには、Macrobenchmark ライブラリを使用する必要があります。
Macrobenchmark ライブラリは、Jetpack のベンチマーク対象をより複雑なユースケース(アプリの起動、RecyclerView のスクロールやアニメーションの実行といった組み込み UI 操作など)に拡大することで、デベロッパーがアプリのパフォーマンスを深く理解できるようにします。Macrobenchmark は、ベースライン プロファイルの生成に使うこともできます。
Macrobenchmark がアップデートされ、テストのスピードが向上し、新たな試験運用版機能が加わりました。また、TraceSectionMetric を使用したトレースベースのカスタム時間測定もサポートされ、デベロッパーが特定のコード セクションをベンチマーク測定できるようになりました。さらに、AudioUnderrunMetric によるオーディオ バッファ アンダーランの検出が可能になり、オーディオのジャンクを分析しやすくなりました。
BaselineProfileRule は、ランタイム最適化に役立つプロファイルを生成します。BaselineProfileRule は他のマクロ ベンチマークと同じように機能し、デベロッパーはユーザー アクションをラムダ式のコードで表します。以下は、コンパイラが事前に最適化すべき重要なユーザー アクションが、コールド スタート(ランチャーからアプリのランディング アクティビティを開く)である場合の例です。
@ExperimentalBaselineProfilesApi@RunWith(AndroidJUnit4::class)class BaselineProfileGenerator { @get:Rule val baselineProfileRule = BaselineProfileRule() @Test fun startup() = baselineProfileRule.collectBaselineProfile( packageName = "com.example.app" ) { pressHome() // This block defines the app's critical user journey. Here we are // interested in optimizing for app startup, but you can also navigate // and scroll through your most important UI. startActivityAndWait() }}
@ExperimentalBaselineProfilesApi
@RunWith(AndroidJUnit4::class)
class BaselineProfileGenerator {
@get:Rule
val baselineProfileRule = BaselineProfileRule()
@Test
fun startup() = baselineProfileRule.collectBaselineProfile(
packageName = "com.example.app"
) {
pressHome()
// This block defines the app's critical user journey. Here we are
// interested in optimizing for app startup, but you can also navigate
// and scroll through your most important UI.
startActivityAndWait()
Macrobenchmark でのベースライン プロファイルの生成と使用に関する詳細と完全なガイドについては、Android デベロッパー サイトのガイドをご覧ください。
新しい JankStats ライブラリを使うと、アプリの UI のパフォーマンス上の問題の追跡や分析をすることができます。これには、一般に「ジャンク」と呼ばれる、レンダリング フレームのドロップに関するレポートが含まれます。JankStats は、FrameMetrics などの既存の Android プラットフォームを利用していますが、API レベル 16 以降で使用できるようになっています。
このライブラリは、プラットフォームに組み込まれている機能以外に、新たな機能も提供しています。フレーム ドロップの原因の特定に役立つヒューリスティック、レポートに UI の状態を含めることによる追加コンテキストの提供、分析用データのアップロードに使用できるレポート コールバックなどです。
この 3 つの JankStats の主要機能について説明します。
Tracing ライブラリは、トレース イベントをシステム バッファに書き込み、アプリのパフォーマンス プロファイリングができるようにします。Tracing 1.1 は、API レベル 14 以降のデバッグ不可ビルドのプロファイリングをサポートしています。これは、API レベル 29 で追加された <profileable> マニフェスト タグに似ています。
UI ライブラリにいくつかの変更が加えられ、大画面の互換性、折りたたみ、絵文字のサポートが向上しました。
ネイティブ UI を作成するための Android の最新ツールキット、Jetpack Compose の 1.2 ベータ版がリリースされました。ダウンロード可能なフォント、lazy layout、ネストされたスクロールの相互運用性など、いくつかの機能が追加され、より高度なユースケースをサポートするようになります。詳しくは、ブログ投稿 Jetpack Compose の新機能をご覧ください。
新しい WindowManager ライブラリは、デベロッパーがアプリをマルチウィンドウ環境や新しいデバイスのフォーム ファクタに対応させる際に役立ちます。このライブラリは、API レベル 14 以降でサポートされる共通 API サーフェスを提供します。
最初のリリースは、折りたたみ式デバイスのユースケースが対象で、コンテンツの表示方法に影響する物理特性の照会などが含まれています。
Jetpack の SlidingPaneLayout コンポーネントがアップデートされ、WindowManager のスマート レイアウト API を使用できるようになりました。ヒンジをまたぐ場合など、オクルージョン領域にコンテンツが配置されないようにすることができます。
新しい DragAndDrop ライブラリも、新しいフォーム ファクタとウィンドウ モードの対応に役立ちます。デベロッパーは、アプリ内外からのデータのドラッグ&ドロップを受け入れることができます。DrapAndDrop には一貫したドロップ ターゲット アフォーダンスが含まれ、API レベル 24 以降がサポートされます。
AppCompat ライブラリを使うと、旧 API バージョンのプラットフォームで新しい API にアクセスできます。これにはダークモードなどの UI 機能のバックポートも含まれます。
AppCompat 1.4 には、Emoji2 ライブラリが統合されています。API レベル 14 以降の AppCompat でサポートされるすべてのテキストベース ビューで、新しい絵文字がデフォルトでサポートされます。
カスタム ロケール選択が API レベル 14 以降でサポートされるようになりました。アプリを再起動しても失われないロケール設定の手動永続化と、サービス メタデータ フラグによる自動永続化をサポートしています。この機能は、同期的にロケールを読み込み、必要に応じて実行中のアクティビティを再作成することをライブラリに指示します。API レベル 33 以降では、プラットフォームが永続化を管理します。これによってオーバーヘッドが増加することはありません。
Annotation ライブラリは、ツールや他のデベロッパーがアプリのコードを理解するために役立つメタデータを公開します。@NonNull のような一般的なアノテーションが提供されます。こういったアノテーションを lint チェックと組み合わせて使用することで、コードの正確性とユーザビリティを向上できます。
アノテーションは現在 Kotlin に移行中で、Kotlin を使用するデベロッパーには、より適切なアノテーション ターゲット(@file など)が表示されるようになります。
要望の多かったいくつかのアノテーションが、対応する lint チェックと共に追加されています。これには、メソッドや関数のオーバーライドに関するアノテーションや、@DeprecatedSinceApi アノテーションが含まれます。@DeprecatedSinceApi は、@RequiresApi を補うもので、特定の API レベル以上で使用を推奨しないことを示すアノテーションです。
現在、GitHub で 100 以上のプロジェクトを公開しています。以下のモジュールは、標準の GitHub ベースのワークフローを通じてデベロッパーの皆さんからのサポートを受け付けています。
Pull リクエストの処理方法と Jetpack ライブラリの開発について詳しくはウェブサイトをご覧ください。
以上は、過去数か月間に行われた Jetpack のすべての変更に関する概要です。各ライブラリの詳細については、AndroidX のリリースノートをご覧ください。API ピッカーを使用して簡単にライブラリを検索することもできます。また、その他のハイライトについては、Google I/O トーク (動画/英語) を視聴してください。
Java は Oracle および / またはその関連会社の商標または登録商標です。
Reviewed by Mari Kawanishi - Developer Marketing Manager, Google Play