この記事は Oscar Rodriguez による Android Developers Blog の記事 " Boost the security of your app with the nonce field of the Play Integrity API " を元に翻訳・加筆したものです。詳しくは元記事をご覧ください。
先日リリースされた Play Integrity API を使って、リスクや不正行為の可能性からゲームやアプリを保護する手段を講じるデベロッパーが増えています。
Play Integrity API は、アプリの整合性、デバイスの整合性、ライセンス情報に関する便利なシグナルに加えて、シンプルでありながら非常に便利な「ノンス」と呼ばれる機能を備えています。これを正しく使うと、Play Integrity API が提供する既存の保護をさらに強化できるほか、中間者 (PITM) 改ざん攻撃やリプレイ攻撃といった特定の種類の攻撃を軽減できます。
このブログ投稿では、ノンスとは何か、どのような仕組みで動作するのか、どのように使えばアプリの保護を強化できるのかについて、詳しく説明したいと思います。
暗号学やセキュリティ エンジニアリングにおいて、ノンス (number once) とは安全な通信の中で一度だけ使われる数を指します。ノンスは、認証、暗号化、ハッシュなど、さまざまなことに応用できます。
Play Integrity API でのノンスは、Base64 でエンコードされた暗号バイナリ blob です。API の整合性チェックを呼び出す前にこれを設定すると、API の署名付きレスポンスでその値がそのまま返されます。ノンスの作成方法、検証方法によって、Play Integrity API が提供する既存の保護をさらに強化したり、中間者 (PITM) 改ざん攻撃やリプレイ攻撃などの特定の種類の攻撃を軽減したりできます。
Play Integrity API が行うのは、署名付きレスポンスで実際のノンスデータをそのまま返すことだけです。そのため、有効な Base64 でさえあれば、どんな値でも設定できます。ただし、ノンスは、レスポンスをデジタル署名するために Google のサーバーに送られます。そのため、ノンスにはユーザー名、電話番号、メールアドレスなどの個人を識別できる情報 (PII) を一切設定しないことが非常に重要です。
アプリに Play Integrity API を設定したら、setNonce() メソッドを使ってノンスを設定します。または、Kotlin 版、Java 版、Unity 版、およびネイティブ版の API でも、同等の方法が提供されています。
setNonce()
Kotlin:
val nonce: String = ... // Create an instance of a manager.val integrityManager = IntegrityManagerFactory.create(applicationContext) // Request the integrity token by providing a nonce.val integrityTokenResponse: Task<IntegrityTokenResponse> = integrityManager.requestIntegrityToken( IntegrityTokenRequest.builder() .setNonce(nonce) // Set the nonce .build())
val nonce: String = ...
// Create an instance of a manager.
val integrityManager =
IntegrityManagerFactory.create(applicationContext)
// Request the integrity token by providing a nonce.
val integrityTokenResponse: Task<IntegrityTokenResponse> =
integrityManager.requestIntegrityToken(
IntegrityTokenRequest.builder()
.setNonce(nonce) // Set the nonce
.build())
Java:
String nonce = ... // Create an instance of a manager.IntegrityManager integrityManager = IntegrityManagerFactory.create(getApplicationContext()); // Request the integrity token by providing a nonce.Task<IntegrityTokenResponse> integrityTokenResponse = integrityManager .requestIntegrityToken( IntegrityTokenRequest.builder() .setNonce(nonce) // Set the nonce .build());
String nonce = ...
IntegrityManager integrityManager =
IntegrityManagerFactory.create(getApplicationContext());
Task<IntegrityTokenResponse> integrityTokenResponse =
integrityManager
.requestIntegrityToken(
.build());
Unity:
string nonce = ... // Create an instance of a manager.var integrityManager = new IntegrityManager(); // Request the integrity token by providing a nonce.var tokenRequest = new IntegrityTokenRequest(nonce);var requestIntegrityTokenOperation = integrityManager.RequestIntegrityToken(tokenRequest);
string nonce = ...
var integrityManager = new IntegrityManager();
var tokenRequest = new IntegrityTokenRequest(nonce);
var requestIntegrityTokenOperation =
integrityManager.RequestIntegrityToken(tokenRequest);
ネイティブ :
/// Create an IntegrityTokenRequest object.const char* nonce = ...IntegrityTokenRequest* request;IntegrityTokenRequest_create(&request);IntegrityTokenRequest_setNonce(request, nonce); // Set the nonceIntegrityTokenResponse* response;IntegrityErrorCode error_code = IntegrityManager_requestIntegrityToken(request, &response);
/// Create an IntegrityTokenRequest object.
const char* nonce = ...
IntegrityTokenRequest* request;
IntegrityTokenRequest_create(&request);
IntegrityTokenRequest_setNonce(request, nonce); // Set the nonce
IntegrityTokenResponse* response;
IntegrityErrorCode error_code =
IntegrityManager_requestIntegrityToken(request, &response);
Play Integrity API のレスポンスは、JSON Web Token (JWT) (英語) 形式で返されます。このペイロードは、次の形式の平文 JSON テキストです。
{ requestDetails: { ... } appIntegrity: { ... } deviceIntegrity: { ... } accountDetails: { ... }}
{
requestDetails: { ... }
appIntegrity: { ... }
deviceIntegrity: { ... }
accountDetails: { ... }
}
ノンスは requestDetails 構造に含まれており、次のような形式になっています。
requestDetails: { requestPackageName: "...", nonce: "...", timestampMillis: ...}
requestDetails: {
requestPackageName: "...",
nonce: "...",
timestampMillis: ...
nonce フィールドの値は、以前に API に渡した値と厳密に一致する必要があります。さらに、ノンスは Play Integrity API の暗号学的に署名されたレスポンスに含まれているため、レスポンスを受け取った後に値を改変することはできません。この特性を活用することで、ノンスを使ってアプリの保護を強化することができます。
悪意のあるユーザーが、オンライン ゲームでプレーヤーのスコアをゲームサーバーに報告する不正行為のシナリオについて考えてみましょう。この場合、デバイスは侵害されていませんが、プロキシ サーバーや VPN を使うと、ユーザーはゲームとサーバーとの間でネットワークに流れるデータを参照したり改変したりできます。そのため、悪意のあるユーザーは、実際のスコアはかなり低いにもかかわらず、高いスコアを報告できることになります。
この場合、Play Integrity API を呼び出すだけでは、アプリを保護することはできません。デバイスは侵害されておらず、アプリも正当なものなので、Play Integrity API が行うすべてのチェックに合格します。
しかし、Play Integrity API のノンスを使えば、操作の値をノンスにエンコードすることにより、ゲームのスコア報告という価値の高いアクションを保護できます。この実装は次のようになります。
この手順を示したのが次の図です。
保護すべき元のメッセージが署名結果と合わせて送信され、サーバーとクライアントの両方でノンスの計算にまったく同じメカニズムを使っている限り、メッセージが改ざんされていないことを示す強力な保証となります。
なお、このシナリオのセキュリティ モデルは、攻撃がデバイスやアプリではなく、ネットワーク上で行われることを前提としています。そのため、Play Integrity API が提供するデバイスとアプリの整合性シグナルも合わせて検証することが特に重要です。
別のシナリオについて考えてみましょう。ここでも、悪意のあるユーザーが Play Integrity API で保護されたクライアント サーバー アプリと不正な行為を行おうと、侵害したデバイスをサーバーが検出できないような形で使う場合です。
まず、攻撃者は正当なデバイスでアプリを使い、Play Integrity API で署名付きレスポンスを収集します。次に、侵害したデバイスでアプリを使い、Play Integrity API の呼び出しを傍受して、整合性チェックをする代わりに以前に記録した署名付きレスポンスを返します。
署名付きレスポンスは改ざんされているわけではないので、デジタル署名は問題なく見えます。そのため、アプリサーバーは正当なデバイスと通信していると誤解する可能性があります。これを リプレイ攻撃と呼びます。
このような攻撃に対する防御の第一線となるのは、署名付きレスポンスの timestampMillis フィールドを検証することです。このフィールドにはレスポンスが作成された時間を表すタイムスタンプが含まれており、たとえデジタル署名が正当であることが検証されても、古くて疑わしいレスポンスを検出する際に役立ちます。
timestampMillis
ただし、Play Integrity API のノンスを使ってレスポンスごとに一意な値を割り当て、レスポンスが以前に設定した一意な値と一致することを検証することもできます。この実装は次のようになります。
この実装があれば、サーバーがアプリに Play Integrity API の呼び出しを要求するたびに、毎回異なるグローバルに一意な値が使われることになります。そのため、攻撃者がこの値を予測できない限り、ノンスが期待される値と一致しないので、以前のレスポンスを再利用することはできなくなります。
上記の 2 つのメカニズムはまったく異なるメカニズムで動作しますが、アプリで両方の保護が同時に必要になる場合は、1 回の Play Integrity API 呼び出しで両方を組み合わせることができます。たとえば、両方の保護の結果を大きな Base64 ノンスに追加します。両方のアプローチを組み合わせた実装は、次のようになります。
ここで紹介したのは、ノンスを使って悪意のあるユーザーに対してアプリの保護を強化する方法です。アプリでプライベートなデータを扱っている場合や、アプリが不正使用に対して脆弱な場合は、Play Integrity API を使って脅威を軽減する措置を検討することをお勧めします。
Play Integrity API の詳細を知りたい方やこの API を使ってみたい方は、g.co/play/integrityapi のドキュメントをご覧ください。
Reviewed by Mari Kawanishi - Developer Marketing Manager, Google Play